『退職代行』――
最近よく耳にするようになった言葉ですが、正直これまでの私には縁遠い話だと思っていました。
……そんなふうに他人事のように考えていたのも、今では昔の話。
とうとう自分の身近なところで退職代行を使って辞めていった人がいて、私はその対応を任される立場になりました。
その経験を通して、社会人としての「責任」について改めて考えさせられた出来事があったので、
今回は、そんな私の率直な気持ちを綴ってみようと思います。
“最低限の責任”って、やっぱり必要なんじゃないかなと思った話
突然かかってきた、退職代行からの電話
「お世話になります。私、退職代行〇〇の××と申します。
貴社にお勤めの△△様ですが、この度退職する運びとなりましたので、代わりにご連絡差し上げます。
今後は弊社が窓口となりますので、ご本人様やご家族様へのご連絡はお控えください。」
――そんな一報が、いつも通りの出勤日の朝、突然かかってきました。
いつもと変わらない業務の合間に、あまりにも非日常なその電話が割り込んできたことで、
その日の空気は一瞬で張りつめたものに変わりました。
「退職代行」なんて、テレビの中の話だと思っていたのに…
それがいきなり“現実”になった瞬間でした。
会社を”辞める”ことって、そんなに軽いこと?
退職代行を通じて辞めたのは、新人ではなく、
それなりに長く勤め、業務も抱えていた人でした。
それなのに――引き継ぎは一切なし。
本人への連絡も「控えてください」と退職代行会社に釘を刺され、
そもそも連絡自体がつかない状態。
そしてそのまま、即日退職が確定しました。
会社を辞めるって、そんなに簡単なことなんでしょうか…?
まるで最初からいなかったかのように、その人の存在は消えて。
でも、残された業務だけは確かに残る。
当然、それを処理するのは私たち――残された側です。
その時ふと思い浮かんだのが、
「飛ぶ鳥、後を濁さず」ということわざでした。
……昔の人の言葉って、本当に偉大ですね。
あまりの現実に、少し現実逃避したくもなりました。笑
「最低限の責任」って、やっぱり大事なんじゃないかな
私は、退職代行という仕組み自体に反対の立場です。
ちょっと強く聞こえてしまったかもしれませんが、
「嫌いだから」「使う人を責めたいから」ではありません。
どんな経緯であれ――
「辞める」と決めたなら、それまでお世話になった会社に対して、
最低限の責任を果たすべきじゃないかなと思うのです。
長く勤めていた人はもちろん、
入社したての新人であっても、
その会社に入るまでに面接の時間を割いてもらい、
入社後には備品の準備をしてもらったり、教育係をつけてもらっていたはずです。
そこには間違いなく、誰かの手間と時間がかかっています。
そうした背景を無視して、
最後の最後だけ「他人を通じて電話一本で終わり」にしてしまうのは、
あまりにも礼を欠いた行為だと思うのです。
「辞める自由」はある。
でもそれと同時に「去り方の責任」も、やっぱりあるはずです。
このままだと本当に必要な人が使えなくなってしまう
退職代行という仕組みに対して、私は基本的に反対の立場をとっています。
ですが、その存在意義を否定しているわけではありません。
世の中には、自分ひとりの力ではどうしても辞められない。
心や体を壊しかけながら働いている――そんな人たちが確かに存在しています。
そういった人たちにとって、退職代行は「最後の砦」のような、救いの手段でもあるはずです。
だからこそ、“気軽に” 使われてしまうことに、私は憤りを感じているのです。
気軽に利用する人が増えるほど、
退職代行への社会的な印象は悪くなってしまいます。
「退職代行を使う人は無責任」
「すぐ辞めるから採用したくない」
「どうせまた逃げるんでしょ?」
そんなレッテルを貼られ、
本当に必要としている人が使いづらくなってしまったら――
それは本末転倒ではないでしょうか。
さらに、企業側も、立て続けの“突然退職”に対して対策を講じ始めるでしょう。
そうなれば、退職代行という仕組みそのものが、
本当に追い詰められた人に届かないものになってしまう。
私は、退職代行そのものを否定したいのではありません。
正しく使われ、正当に機能する世の中であってほしい。
そしてそれを、本当に必要とする人が、ためらうことなく使える社会であってほしい。
そう願わずにはいられません。
辞めるときは、残される人のことも考えるべきではないでしょうか
誰かが辞めるとき、会社には「残される人」も必ず存在します。
そしてその誰かが、辞めた人の仕事を引き継ぎ、穴を埋めることになります。
私自身、これまでに何度か転職を経験してきました。
また、逆の立場として、退職した方の業務を引き継いだ経験も何度もあります。
そのたびに痛感するのが、引継ぎの大切さです。
たとえ短期間の在籍でも、あなたが関わった仕事は、
きっと誰かが何かしら手を加えてくれたものです。
だからこそ、辞める際には「その仕事をどうやって引き渡すか」までが、あなたの責任ではないでしょうか。
もし、今この記事を読んでいるあなたが、退職代行の利用を迷っているなら――
一度立ち止まって、「本当にそれが必要なのか?」を考えてみてください。
そして、どうしても必要だという結論に至ったとしても、
何かしらの形で、必ず引継ぎだけは残してほしい。
辞める人にも、残る人にも、なるべく嫌な思いをさせない。
そんなお互いにとって前向きな、希望のある退職・転職であってほしいと願っています。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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